神経難病のインフォームド・コンセント

筋萎縮性側索硬化症を中心に

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の診療で、インフォームド・コンセントの中核を成すものは病状の告知である。実際に生じる将来の身体機能の低下を患者に正しく理解させ,その機能低下を予測した対応を図り、適切な時期に適切な病状の告知を行うことは、重要な医療技術である。
「告知せず」と言われる方に(ALS患者、橋本みさおさんの意見)
医療技術としての告知は、告知するか否かの適応が決定され、その結果について客観的に評価するという臨床医学のルールに則している必要がある。

告知の技術として誰が(術者)、いつ(告知時の障害の程度)、どこで、どんな方法で(告知の会話の進め方)などの点を考慮しなければならない。

告知の進め方の原則は、


ALSの障害と段階的告知方法

ALSは脊髄・脳幹の運動ニューロンの変性により起こる全身性の進行性筋萎縮性疾患であるが、障害(disability)の面からみると運動、コミュニケーション、嚥下そして呼吸障害の4点に集約される。診断確定後なるべく早期に、運動、コミュニケーション、嚥下の3障害について告知(第1段階告知)し、病気は治らなくても障害に対する治療法があることを説明する。ある程度病状が進行してから呼吸障害に触れ、気管切開や人工呼吸器について説明(第2段階告知)する。

  1. 第1段階告知

  2. 第2段階告知

社会的側面の説明の内容

人工呼吸器について説明するときには病気のことを説明するだけではなく、人工呼吸器療法に伴う社会的側面についても併せて説明し、気管切開や人工呼吸器装着などの医療処置を受けるかどうかを人生観、死生観に照らして患者本人に自己決定をしてもらう。

人工呼吸器を装着しないと決断することは呼吸不全に陥ったとき、“死”を選択することであり、患者にとって厳しすぎると考える人もいる。しかしインフォームド・コンセントの法理からすると、それがたとえその患者にとって辛いことであるにしても、また、家族が「本人には言わないでほしい」と申し出ても、「明日かつ現在の危険」があるなど特段の事情がない限り、患者の「知る権利」は医師・家族らの「知らせない配慮」に優先する。

人工呼吸器療法による療養形態

在宅人工呼吸療養ALS患者の生活の質に影響を与える因子

在宅人工呼吸療法中の患者及び家族の日常生活の満足度について行った少数患者に対する調査(国立療養所千葉東病院、今井尚志ら、1994)によると、予め病名告知と社会的側面の充分な説明を受けた後、人工呼吸器を装着した患者(5名)における日常生活に対する満足度は“ほぼ満足”以上が3名、“何とも言えない”と答えた患者が2名であり、”非常に不満”という回答はなかったが、病名未告知のまま急な呼吸困難のため人工呼吸器を装着した患者では“非常に不満”と答えている。一方、介護者の方は病名告知と社会的側面の説明も受けた家族のうち“非常に満足”と答えたのは半数にしかすぎない。

呼吸不全に陥ったとき延命処置を望まず人工呼吸器を装着せず死亡した患者の遺 族に対する調査(8遺族)では、全例がどのような医療的処置を受けるか患者と家族で相談することができたと答え、患者の療養方針を決定する上で社会的側面の説明を含めたインフォームド・コンセントが患者・家族の療法に必要であると回答している。患者が人工呼吸器の装着を選択しなかった理由としては、2遺族が経済的問題や介護力等の社会的側面の影響が大きいと答えている。

現在の医療制度、社会環境のもとでは、患者が人工呼吸器の装着の自己決定に際し、経済的問題や介護力などの社会的側面の影響を受けることは避けられない。患者や家族が療養方針を決定する際に、社会経済的影響がなるべく軽減できるように神経難病緩和ケア病棟の整備、在宅療養支援システムの整備に努める必要がある。


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