IV−1 ケアサービスの開発・評価・改善戦略としてのQOL
QOLは患者の病気や治療の体験を包括的に捉えようというスローガンであり、その構成要素を一義的に定義することは困難である。我々が心理学的尺度によって測定できるのは、患者の主観的体験の限られた側面であることを認識し、測定対象となるコンセプトを選択する必要がある。
ケアを評価する道具としてQOL尺度が存在するとすれば、どんなコンセプトを測定するかは、評価されるケアの性質によって戦略的に決定されることである。しかし、これまでのQOL研究の多くは、どんなサービスを評価するのかについて明確な目的性がなく、「測定のための測定」に終始しがちであったきらいがある。より根源的な問題は、生物医学的パラダイムに制約された、現行の臨床サービスの枠組みの中でのみQOLを論じようとしてきたことである。QOLなるスローガンは、測定対象を生物医学的な枠組みから開放することと同時に、医療サービスの内容をも生物医学的な枠組みから、より包括的な枠組みに転換することを要求しているはずである。
以上の問題を克服するために3つの対策を提示したい。第1に尺度開発以前の問題として、サービス開発・評価・改善のための枠組み(PDCAサイクル)の中でサービスを見直し、その評価作業としてQOL測定を位置付けなおす必要がある。第2に、患者のどのような生活側面に働きかけるために、どんなサービスが必要とされているかについて、質的研究手法を用いた、詳細なニーズアセスメントが必要である。第3に、患者の社会・心理的側面に働きかけるようなサービスの開発には、生物医学的な枠組みやヒューマニズムにのみ囚われないで、社会心理学、教育学、マーケッティングなどの理論を用いた、学際的取り組みが必要である。心理学的尺度特性(信頼性、妥当性など)の方法論的検討は、その後論議されても遅くはないであろう。