多発性硬化症を理解するための基礎的知識

脳や脊髄の細胞は大変長い突起を出して、いろいろな他の神経細胞相互や皮膚などの組織に連絡して、電気による信号をやりとりしています。これらの電気信号を何千・何万分の1秒という瞬時に伝えるために神経線維の周囲には、乏突起膠細胞(オリゴデンドログリア)より作られた髄鞘(ミエリン)がその回りを取り巻いて、電気が漏れないように絶縁の役目をしています。私たちが歩いたり、何かに触られたと感じたり、物を見たりするとき、これらの現象は神経細胞の命令による電気的興奮の伝達として、一瞬の内に行われています。このとき神経線維には電気活動が髄鞘の切れ目に沿って、跳躍して伝導して行きます。多発性硬化症では、病気によってこの髄鞘が無くなり、電気が伝わらなくなるために、障害されている神経線維の種類により、いろいろの症状がでます。

多発性硬化症の病理

多発性硬化症で障害されるのは、神経系の中でも中枢神経系といわれる大脳・中脳・小脳・延髄・脊髄・視神経が中心で、とくに白質にある髄鞘に巻かれた神経線維群が侵されます。まれに末梢神経がおかされることもあります。

多発性硬化症の病巣は一般には1〜2cm径のもので、大脳では、髄鞘に包まれた神経線維の多い白質、特に脳室の周辺に多く、新旧様々な脱髄巣がみられます。脊髄や視神経でも数ミリのものが1ヶ、あるいは幾つも神経に沿ってみられます。

これらの病巣内の小さな静脈や毛細血管の周囲には、多くのリンパ球、単球や形質細胞とよばれる免疫に関係した細胞が出てきて、その周辺では髄鞘が無くなっています。

慢性期の病巣は周囲との境界が明瞭で、形の不規則な脱髄班で、軸索は比較的保たれ、神経膠細胞症(グリオーシス)のため硬くなっています。そのため硬化症といいます。

多発性硬化症の脊髄


上図は多発性硬化症の1例の脊髄病変に髄鞘染色を行ったものです。 この染色では正常の髄鞘は青く染まりますが、脱髄(髄鞘の破壊)があると青く染まらずに色が薄くなります。このように多発性硬化症の病巣(脱髄巣)は、脳脊髄の白質の中に神経経路の走行とは無関係に散発します。

このことは、筋萎縮性側索硬化症や脊髄小脳変性症のような変性疾患がそれぞれの神経経路毎にきちんと秩序だった変性様式を取るのとは大きく違うところです。

そして、多発性硬化症の臨床症状は脱髄巣が脳脊髄のどの部位に出来るているかによって異なり、ある程度、頻度の多い症状はあげられますが、患者さん1人1人で症状が非常に違っていることも少なくありません。


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