多発性硬化症の病変が強くならない内に、出来るだけ早く治療をして、神経細胞やその突起の軸索(アクソン)が壊れるのを、最小限にくい止めます。
慢性期でも、再発が出来るだけ起こらないように再発の予防を試み、起これば直ちに治療することは、急性期と同じです。ある程度症状が進んで、後遺症がある場合は、リハビリを常に行い、残っている神経細胞とその突起を刺激し学習させます。また対象療法として、痛みやしびれを減らしたり、筋肉のつっぱりを押さえて動きやすくしたり、尿を漏れにくくしたりします。既に神経の機能の回復ができなくなった部分にたいしては、車椅子、杖など装具を利用して、生活しやすいように助けます。
最近では、この目的で弱い免疫抑制剤を再発が無くても持続的に飲んだりします。また、再発は風邪や疲労、ストレスの多い時に、起こりやすいので、これらにならないように注意します。つまり、栄養・睡眠をとり、うがい・手洗いを励行し、心の平静などに心がけることです。
多発性硬化症の薬物療法
正常な体に誰にでもあるホルモンで、副腎と呼ばれるお腹の中の臓器から分泌されています。浮腫などの炎症をおさめ、免疫反応を抑える作用がありますから、自己免疫病やアレルギー病によく使われます。
急性増悪時に行います。神経の障害は発症からの時間が短いほど効果があります。一日にメチルプレドニゾロン 250 mgー1000 mg を3日間ときに5日間点滴で静脈注射します。その後、プレドニゾロンを一日に60 mgぐらいより始めて症状により、1から3ヵ月ぐらいかけてゆっくり減らして終了します。商品名では、ソルメドロール、プレドニン、デカドロンなどがあります。これらは構造と作用が少しづつ違います。
多発性硬化症の治療に有効であるという証拠はありませんので、漫然としたステロイドの投与はありません。しかし、再発が多い、症状が重い場合にはやむなく長期の少量の服薬が必要な人も有り、その場合には問題の多い副作用が色々あり、医師の注意によく従って飲む必要があります。
初期には、にきび、食欲増進、満月様顔貌(月のように顔が丸くなること)があります。中・長期になれば、感染にかかりやすい、傷が治りにくい、胃の調子が悪い、骨粗鬆症、糖尿、高血圧、肥満、高脂血症、白内障、皮膚が薄く柔らかくなる、血管が脆弱になるなどがあります。結核や真菌症(カビ感染)のいわゆる日和見感染、大腿骨骨頭壊死、緑内症、精神異常なども起こることがあります。数カ月以上使用しているときは、下垂体ー副腎皮質の機能が落ちますのでストレスのかかる状況では注意が必要です。
感染症にかかり易くなりますから、虫歯、歯槽膿漏、中耳炎、胆石などのある人は、治療前に治しておかなければなりません。
この薬を飲むと食欲が出ますので、将来、副作用が出にくいように、カロリー、食塩、糖分、脂肪などを制限し、皮膚の清潔、手洗いとうがいの励行、人ごみを避ける、カルシウムやカリウム剤、蛋白を摂取する必要があります。重い物をもたない、転倒しない、日光浴をし、規則正しく軽い運動をすることも大切です。
IFNは人の白血球や繊維芽細胞より由来し、α(アルファ)型、β(ベータ)型などがあります。多発性硬化症の患者の病巣の発生に関係のある低下したサプレッサーT細胞を増加させてその活性を亢進させたり、マクロファージ(大喰細胞)より産生されるサイトカインのTNF活性を下げて、病気の勢いを軽快させます。
これまで再発と寛解を繰り返す型の多発性硬化症の患者さんに、バイオで作られたリコンビナントIFNα を一日おきに筋肉に注射したところ、6カ月後には再発の回数が減少してMRIで見ると病巣の改善があり、脳・脊髄液中の検査データも改善したことが知られています
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またリコンビナントIFNβは再発寛解型の多発性硬化症の患者さんに二重盲検試験で投与されたところ、再発の回数が減少して、MRI病巣の改善がみられています。しかし既にある障害度の改善はありませんでした。リコンビナントIFNβは多発性硬化症の治療薬として、米国FDA(政府薬務局)に3年前に承認されて現在多くの患者さんに使われています。IFNβには、1aと1bがありますが、大腸菌で作ったものをb-1bと言い、日本で再発予防に使用されているものは、β-1bです。
副作用ははき気、肝障害、発熱、風邪症状、疲労感、注射した場所の痛み、不整脈、アレルギー、頭痛、鬱症状です。漢方薬の小紫胡湯と併用すると肺線維症がでやすいので、漢方薬は飲んではいけません。風邪症状は数回治療を続ける内に殆どの人では治まります。
免疫抑制剤は、副作用などにより副腎皮質ステロイドホルモンが飲めない、またはその効果が無い時や多発性硬化症の再発寛解型で再発が多く重症化しそうな人や、慢性進行型で神経障害が進行する時に飲みます。この薬は一般にはTあるいはBリンパ球の核酸代謝に作用して、リンパ球が分裂増殖するのを抑え、結果として抗体量を減らしたり、免疫反応を抑えます。ほとんどの免疫抑制剤は、リウマチなど他の自己免疫疾患の治療にも使われています。
多発性硬化症には、アザチオプリン、サイクロホスファミドがよく使われていますが、最近では メソトレキセート、サイクロスポリンAも外国では使用されていて、病気の進行が治療中は止まっているとの報告があります。
免疫抑制剤には、副作用として骨髄抑制(白血球の減少、貧血、血小板減少、出血性素因など)、易感染、肝臓、腎臓、膀胱、胃腸障害などがあります。易感染(細菌などに感染し易い)については、前の副腎皮質ホルモン剤の項で述べてあります。他の薬との併用には、骨髄抑制にたいして厳密な注意が必要なので、医師による血液・尿などの検査を頻繁に受ける必要があります。これらの薬は効果が出るまでに3カ月から6カ月以上かかりますので、あせらず飲み続けることが必要です。副作用が出ないような量を見つけてもらって調節して持続的に使用することが大切です。
アザチオプリンでは、肝障害や骨髄障害が主たる副作用です。サイクロホスファミドは、骨髄抑制の他に、出血性膀胱炎、脱毛、性腺機能低下などを起こす可能性があります。サイクロスポリンAは腎障害が中心です。免疫抑制剤を飲んでいるとき心臓病や腎臓障害のときに飲む利尿剤(ラシックス)、痛風のときに飲む抗尿酸剤(ザイロリック)、高コレステロール血症のときに飲む抗高脂血剤(アモトリール、シンレスタール、ロレルコ))、消化性潰瘍治療薬(ガスター)の中にも骨髄抑制作用のあるものがあり、免疫抑制剤と併用されるときは、慎重でなければなりません。特にザイロリックとアザチオプリンは併用できません。
慢性動脈閉塞症や虚血性脳血管障害に使われる抗血小板剤(パナルジン)も骨髄抑制に注意が必要です。
免疫抑制剤は副作用がでて、投薬を中止してもその作用は暫く(2ー3カ月)持続または進行することがあります。油断して血液検査を受けることを怠けないようにして下さい。
これはアミノ酸のアラニン、L−グルタミン酸、L−リジン、L−チロシンの合成薬で、脳や脊髄のミエリン蛋白と似ています。これはミエリン塩基蛋白が免疫細胞に結合するのを阻害します。週1ー2回皮下注射します。欧米では既に多発性硬化症にたいする効果が証明されて、コパキサンと言う名前で発売され患者さんに使用されています。間もなく日本で二重盲検試験が行われます。副作用は殆どなく、風邪症状、うつ、疲労感、皮膚反応などです。
これは血液製剤で、健康な人の献血された血液より分離・殺菌・精製された免疫グロブリンで、人間が作り出している有りとあらゆる抗原に対する抗体そのものです。抗原抗体反応に関係する補体を結合したり、マクロファージの自己にたいする攻撃作用を抑えたり、炎症に関係するサイトカインを減らしたり、自己の抗体にたいする抗体に結合したりします。これまで末梢神経の自己免疫病であるギラン・バレ症候群や慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーに対して効果があることが証明されています。欧米で最近2年間にわたり150人の多発性硬化症患者に盲検試験が行われ、体重あたり2-0.15 gを毎月1回静脈注射すると、再発回数の減少と症状の改善がありました。今後日本でも治験を予定しており、副作用が少なく、有望な治療法と考えられます。有害事象は殆どなく、短時間の皮疹のみでした。
免疫抑制剤の一つで、リウマチ、膠原病などに使用されています。現在日本では多発性硬化症の患者さんにたいして経口で3年間の二重盲検試験が行われ、解析中です。これまでのオープン試験では、作用は強くはありませんが副作用が少なくかなり安全で、長期に使用することができます。作用が弱いので、病勢の強い患者さんには効果が無いようですが、病勢があまり強くない患者さんでは、発作回数を減らし進行を遅れさせると考えられました。最近終了した二重盲検試験では、MRIで造影病巣が減る傾向があったのですが、多発性硬化症の進行の指標であるEDSSの改善はありませんでした。少量の副腎皮質ホルモンとの併用をすれば効果が出る可能性は残されています。
副作用には、感染症、血液障害、消化管出血などがあります。
日本で開発され、現在世界で広く肝臓移植の拒否反応を抑えるために使用されています。最近のオープン試験では、発作回数を減らし進行を遅らせる可能性があります。
副作用としては腎臓障害が主なものですが、血中濃度に注意すれば、副作用は少ないようです。欧米で、多発性硬化症に対する治験の準備が進行中です。
実験動物に抗原を投与すると、その抗原に対する免疫寛容が誘導され、その結果その抗原または類似の抗原にたいする免疫反応は抑制されます。アメリカで、多発性硬化症の患者さんに動物のミエリン塩基性蛋白(MBP)を食べてもらって、脳・脊髄に起こる自己免疫反応を抑え再発を抑制する試みがあります。最近の二重盲検試験では、残念ながら有意な結果が出ませんでした。
多発性硬化症を起こす免疫細胞の1つであるT細胞の性格が明らかな場合には、このT細胞のレセプターを特異的に攻撃する治療が考えられます。脳のミエリン塩基性蛋白(MBP)に特異的に反応するT細胞のレセプターを合成して、これをワクチンとして患者さんに注射し、多発性硬化症を治療する試みがされています。一回の注射で長期間効果が続きます。この場合、反応は選択的ですから他の臓器を障害したりすることが無いと考えられています。この方面の研究はまだ始まったばかりですが、多発性硬化症の再発回数や進行の抑制がありそうです。今後多くの多岐にわたる研究が必要です。
足の筋肉のこわばりやつっぱりを和らげて、歩きやすくすることができます。薬としては、テルネリン、ミオナール、アロフト、リオレサール、ダントリウムなどを一日3錠あて飲みます。場合によっては、6錠飲むこともあります。副作用の主なものは、脱力感、ふらつき、眠気、むかつきなどです。ダントリウムは呼吸障害の強い人は飲めません。また肝障害がでることがあります。他に、セルシン、ホリゾンなどの長時間作用型の精神安定剤が突っ張りをやわらげますが、やはり呼吸障害の強い人や運転をする人は飲めません。
てんかんの薬でもある神経膜の興奮を抑える作用のあるテグレトールがよく効きます。副作用は白血球減少、血管炎、眠気、ふらつき、血清ナトリウムの減少、心伝導抑制などがあります。漫然と飲まないで、痛みの強い時だけ飲んでいれば問題はありません。
うつ病の治療に良く効くトリプタノール、ルジオミール、テシプールや、精神安定剤のコントール、ホリゾン、セルシン、セレナール、てんかんに使われるクロナゼパン(ランドセン、リボトリール)なども効果があります。前者は尿がでにくくなる副作用があります。後者は眠気があり、運転する人は飲めません。最近発売されたセロトニン拮抗薬のセデイールも神経痛に効果があります。
また非ステロイド系消炎鎮痛剤といわれるインダシン、ボルタレン、ポンタール、クリノリル、インフリーなど多くの同系の薬があります。これらと免疫抑制剤の併用にはやはり注意が必要です。骨髄障害や腎障害がくることがあります。また知らない内に消化管より出血があることもあり、ときどき血液の検査や検便が必要です。
慢性的痛みは、薬に頼らず、どんなときに痛みが強いのか自分で研究して、そのときには、気晴らし、姿勢を変える、身体を動かす、歌を唱う、何か熱中することを見つける、友達と話し遊ぶ、外出するなどしてください。マッサージ、筋力を鍛える、関節を動かす、ストレッチをするのも非常に大切です。筋肉や関節が固まると、血液の流れや神経の働き・再生が妨げられて、痛みを持続させます。筋力が落ち、骨が弱ると神経がさらに圧迫される遠因となります。ストレス、疲労、暑熱、過呼吸、不安やタバコは、痛みを誘発しますから、できるだけ心身の安定するような規則正しい生活をします。
尿が出にくいときは、ウブレチドなど膀胱の排尿に関係する筋肉を刺激して収縮を高める薬を飲みます。また腹筋を鍛えて、腹圧をかける練習をします。逆に頻尿があったり、尿がすぐ出てしまうときは、ブラダロン、ポラキス、バップフォー、場合によっては、トフラニール、ルジオミール、パーキンなどの膀胱の筋肉を弛める薬をのみます。
これらは、前立腺肥大や、心不全、緑内障のあるときには飲めません。副作用として、尿が出にくくなくなる、目がかすむ、などがあります。ほかにミニプレス、ハルナールなどのように外尿道括約筋の緊張を下げ、利尿筋外尿道括約筋協調不全などによる尿道内圧(高値)を下げ、排尿をしやすくする薬を飲むこともあります。これらの薬の副作用は、立ち眩み、低血圧です。いずれも医師の指導のもとに服用しなければなりません。
多発性硬化症では、多くの人がいろいろな痛みやしびれを持っています。多発性硬化症の神経痛に対しては、テグレトール、アレビアチン、トリプタノールなどが有効なことがあります。多発性硬化症による痛みは慢性的なものが多いですから、痛み止めの使用は必要最低限に止めたいものです。飲むときは、痛みのつよいときだけ頓服でのみます。