ALSの方のための拡大・代替コミュニケーション:
透明文字盤(Etran)について

言語療法士 山本智子

 もし音声によるコミュニケーションができなくなったら、どうやって意思の疎通をしたらいいでしょうか? 手の運動障害もあって、筆談も思うようにいかないとしたら・・

 近年、電子機器の技術の発達にともない、その技術を、障害を持ったかたがたに役立てるAssistive Technology(技術支援)やAugmentative and Alternative Communication( AAC、拡大・代替コミュニケーション)の分野も急速に発達して来ています。「AACの基本は、手段にこだわらず、その人に残された能力とテクノロジーの力で自分の意志を相手に伝えることにあります。」(中邑、1996) 
患者さんの残存能力を生かしコミュニケーション機器を操作することによって、音声による会話は非常に困難な方も、自分の意志をきちんと相手に伝えることが出来る、そんな便利な拡大・代替コミュニケーションのテクニック・機器が、ずいぶん身近なものになってきています。また、ハイテク機器やパソコンといった難しそうな機器を利する方法の他に、簡単な道具を使って、コミュニケーション障害を緩和する方法もあります。上手に使い分けて快適なコミュニケーションを続けていきたいものです。

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透明文字盤(Etran)について

 透明文字盤は簡単に自作でき、声が使えなくなった後、眼球運動が保たれている限りずっと使い続けられる便利な道具です。お互いの視線を合わせて直接文字を読みとっていく方法は、慣れると、走査方式の意思伝達装置の入力速度よりずっと速く言葉を伝えることができますので、多くの方々に活用していただきたいと思います。
 発音が不明瞭になり、何度も同じ言葉を繰り返さないと、なかなか相手に伝わらないと感じるようになった頃から補助的に透明文字盤を使うようにして馴れておくと一番良いでしょう。でも、実際には音声言語を離れて代替コミュニケーションへ移行しようと決心するには、様々な心の準備が必要で、簡単なことではないのだろうとも思います。また、突然に気管切開が必要になって音声言語を使えなくなってしまう場合もあるのかもしれません。いろいろな経過を経て「透明文字盤を試してみよう」と思い立った皆さんに、以下の透明文字盤の手引きをご紹介します。

透明文字盤(Etran)の手引き

<<作り方>>

<<使い方>>
患者と聞き手が文字盤を挟んで自然に見つめあえるように位置を決める。
車椅子に乗っている/ベッドに寝ている、などの条件により適切な位置が違います。無理な姿勢で疲れないようなお互いの位置をみつけて下さい。
  1. 患者の目から20〜30cmくらい (視力、眼球運動の範囲により患者の見やすい位置をみつける) 離して、文字を患者側に向ける。老眼の方には、もう少し離した方がいいかもしれません。
  2. 患 者 :言いたい言葉の文字を見る。 聞き手 :患者の視線と自分の視線が一直線になるように文字板を動かす。      (お互いの目と文字が一直線上に並ぶと、透明文字盤上の目的の文字の向こうから相手の目が自分を見つめている状態になります)
  3. 聞き手:患者が見ていると思われる文字を読み上げる。  患 者:合っていれば目を閉じて Yesの合図をし、次の文字を見る。   (患者が目を閉じる合図が苦手な場合は別の合図を工夫する。   目を見開く、上を見る、口を開けるetc.)
  4. 患 者 :読み上げられた文字が違う場合は、正しい文字を見続ける。 聞き手:Yes の合図がない場合は、文字板の位置を少しずらし患者の視線を再度確かめ、読み上げる。(お互いの"利き目"の関係や眼鏡の屈折度の影響(?)で若干文字の中心からずれたところで視線が合う場合もありますので、相手の癖をつかんで適宜修正してく ださい)
<<注意点>> <<練習法>>
  1. お互いにわかっている単語を使って、目の動き、文字板の動かし方に慣れる。聞き手が言葉を決めて、患者にその言葉の文字を目で追ってもらう。
    「こんにちは」「ありがとう」etc.
  2. 予測しやすい言葉を使って練習。聞き手がカテゴリーを指定する。     
    聞き手「食べ物の名前を言って」マ 患者「り・ん・ご」
         
  3. 慣れてきたら、患者の決めた言葉を読み取る。
    短い単語 ⇒ 長い単語 ⇒ 短い文 ⇒ 長い文
         の順に練習する。

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<< 透明文字盤の文字列 -患者さん側から見た場合- >>

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 気管切開などにより声が使えなくなっても、コミュニケーションが不可能になるわけではありません。新しい拡大・代替コミュニケーション方法を身につけることによって、伝達速度は音声言語を使う時よ りは遅くなりますが、快適に意志を伝えることができます。一言一言に思いを凝縮させて伝え、その思いを宝物のように大切に受けとめる。そんな時間のかかるやり取りの中に、かえって、冗長な言葉の氾濫の中で私たちが忘れてしまっている「コミュニケーションの原点」があるような気さえします。
 いろいろなコミュニケーション方法がありますから、最大限に活用して、気管切開後も快適に意志を伝え、おしゃべりを楽しんでいただきたいと思います。

参考文献

  1. 特集−機器の利用、「手足の不自由な子どもたち・増刊 はげみ 4・5月号」P2-P43、 1996年
  2. 肢体不自由者のためのコミュニケーション機器 福祉機器使用研究報告書 Vol.9、東京 いきいきらいふ推進センター、1997年
  3. Dikeman, K. J., Kazandjian, M. S. Communication and Swallowing Management of Tracheostomized and Ventilator-Dependent Adults, Singular Publishing Group, Inc., 1995.
  4. 伊藤元信監訳、拡大・代替コミュニケーション入門、協同医書、1996年

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